2012年2月20日月曜日

いかに難しいか、サッカーボールを蹴るために

少年とボール - 新小児科医のつぶやき

ソース元は、

情報が記事情報しかないのでこれを材料として事実関係を見てみます。朝日では少年はサッカーゴールに向かってフリーキックの練習をしたとなっています。当時小学5年の少年が、学校の授業の一環であったのか、サッカークラブの活動の一環であったのか、それとも放課後とか休み時間中に活動していたかですが、読売新聞には、

判決によると、少年は校庭のサッカーゴールに向けてボールを蹴って遊んでいた

小学生ならありふれた遊びと言っても良いかと思われます。事件は2月となっていますから、ちょうど授業でもサッカーが行われる頃のはずであり、私も子供時代はそんな遊びを盛んにやった記憶があります。朝日記事ではフリーキックの練習となっていますが、個人的にはペナルティー・キックないし、それにプラスアルファのサッカー遊びぐらいじゃないかと想像します。

読売記事にはゴールと門扉の関係が描かれています。良ければリンク先を確認して頂きたいのですが、ゴールの後ろに門扉がある位置関係だったようです。読売の見取り図ほどゴールと門扉が近かったかどうかは確認しようがありませんが、ボールは朝日も読売も「転がり出た」の表現になっています。ボールがゴールの上を越えたのか、それともネットに穴でもあって抜けたのかはわかりませんが、とにかく門扉の外に「転がり出た」ようです。

そこにたまたま86歳(85歳かもしれません)の男性がバイクで通りがかり、このボールを避けようとして転倒したようです。男性は転倒により足を骨折したようで、さらに認知症が出現、事故から1年5ヵ月後に誤嚥性肺炎で死亡となっています。亡くなられた男性の御冥福をお祈りします。


どのように私はフリスビーゴルフディスクを投げないでください

転倒された高齢男性はお気の毒だと思うのですが、これを巡って訴訟が起されています。原告側の主張は「ボールを蹴った少年に責任あり」です。まあ、少年がボールを門扉外に蹴りださなければ事故は起こらなかったとは言えますから、注意義務責任とか予見性を問う事は可能であるとは言えます。これに対する被告側の主張が読売記事にあります。

  1. 校庭でのこの程度の遊びは許され、少年に過失はない
  2. 事故と男性の死亡に関連性がない

1.については「おそらく」ですが、校庭でサッカーボールを蹴って遊ぶのは「ごく普通」の行為であり、蹴ったボールがたまたま門扉の外に転がり出る事まで責任を問うのは「おかしい」ぐらいではないかと推測します。たしかに都市部では校庭から外にボールが出ないように高いフェンスを張り巡らしているところ(校庭が狭いためもありそうに思っています)が多いですが、地方ではそこまで必ずしも気を使っていません。

そのため小学校はもちろんのこと、中学校でも、高校でも校庭外にボールが飛び出す事は椿事とは言えないとも考えられます。これはサッカーボールに限らず他の球技のボールでもありえます。被告側の主張としてそこまで責任を問うのはやりすぎではないかぐらいでしょうか。

2.については、ボールにより転倒したのは認めるとしても、それで起こったのは骨折であり、治療中に認知症を発症したり、さらに誤嚥性肺炎を起こして死亡したのまで関連性を認めるのは広げ過ぎだの主張と思われます。これは医療訴訟でもよくあるパターンですが、これについても疑問を主張しています。

裁判所判断はどちらも朝日からですが、1.については、


"どのようにラケットボールをプレーしない"
    27日付の判決は「蹴り方によっては道路に出ることを予測できた」と指摘。

小学5年(じゃなくても)の蹴ったボールですから、そんなにコントロールが良いわけでなく、力一杯蹴れば「後はボールに聞いてくれ」状態であっても不思議ありません。別に事件の舞台となった小学校でなくとも、蹴ったボールが校庭から飛び出す事はそれなりにあると思います。

「蹴り方」と言う表現の解釈が微妙なんですが、判決は子供が「力一杯蹴った」つまり意図的にセーブして蹴っていない点から、そういう「蹴り方」をすれば校庭外に飛び出す事は予見可能と判断したぐらいで良いのでしょうか。

2.については、

    そのうえでバイクの転倒と死亡との因果関係について「入院などで生活が一変した」と認定。

誤嚥性肺炎が生じたのは認知症が発症したからであり、認知症は骨折により入院等で生活環境が変わったことである。生活環境が一変したのはバイクの転倒事故のためであり、さらにバイクの転倒は少年の蹴ったボールであるから、すべて因果関係が成立するぐらいの解釈になりそうです。

う〜ん・・・てなところです。朝日記事に紹介さている識者のコメントもやっぱり「う〜ん」で、

    仮に少年側が控訴した場合、今回は問われなかった学校側の施設管理についても検討する必要があるのではないか。

ここも言われて見れば若干不思議な点で、学校側の管理責任を問わずに蹴った少年の過失責任を原告側が争った事です。誰を訴えようが原告側の自由ですが、そういう意志であったと言うぐらいにしか推測するしかありません。ただ学校側の管理責任と言う事になると、校庭をすべて高いフェンスで囲む必要が出てきます。これからはそういう方向性になるのでしょうか。


どのくらいのラクロス守備のシャフトである必要はありません

そうなっていくのかもしれません。うろ覚えで申し訳ないのですが、かつて大阪の附属池田小への乱入事件があったときに、学校側の管理責任が厳しく問われた時がありました。これも記憶としては曖昧なんですが、犯人は脚立を用意してフェンスを乗り越えたとなっていたはずですが、それでも責任を問われていました。そうなるとフェンスは10mぐらいは軽く必要かもしれません。

いっそのこと高い塀を巡らした上で、要所に監視塔を設け、さらに外堀を巡らした方が良いかもしれません。そこまでするなら学校全体をドームで覆ってしまうとより安全性は高まりますが、日当たりも必要ですから、ドームは難しいかもしれません。

ただなんですが、今日の情報はあくまでも記事情報だけです。せめて判決文ぐらいの情報がないと真相はなんとも言えません。記者による事実の要約は的確な時もあれば、とんでもない方向に各社足並みをそろえて暴走している事もしばしばあります。そこの点は改めて注意が必要とした上で、ちょっとだけ応用問題を考えてみました。おヒマな方はお付き合い下さい。

前提

    校庭から飛び出したボールを回避しようとして転倒した場合、責任は蹴った者にある

応用問題1

    蹴ったボールではなく、ボールを追いかけて(運転手にはボールが見えなかったとして)飛び出して来た子供を回避しようとして転倒した場合の責任はどこになるか?

応用問題2

    飛び出してきた子供を回避できずにはねた場合の責任はどこになるか?

まず応用問題2の答えとしては運転手にありそうな気がします。仮に応用問題2の正解が運転手であるのなら、運転手はこれを回避する必要があり、バイクなら回避行動のために転倒はありえます。そうなると応用問題1の答えは自己責任になりそうな気がします。しかし、これがボールに代わるとボールを蹴った者の責任となっています。


まさかと思いますが、子供の飛び出しの場合、バイクに当たって子供が負傷したら運転手の責任、これを回避しようとして転倒したら子供の責任になるのでしょうか。この辺の判断は状況設定によって異なるとは思いますが、どんなものかとチト疑問に思います。

いや、ここはもうちょっと因果関係を深く考えて、ボールを蹴っていると校庭外に飛び出すのは予見可能と判決はしています。ボールが飛び出せば、子供が取りに行くのも十分な因果関係があります。因果関係と言う以前に必然の行動です。飛び出した子供に回避運動を行って運転手が負傷した場合は、

    ボールを蹴る → 取りに行くために飛び出す → バイクが子供を回避しようとして転倒する

因果の大元はボールを蹴った子供ですから、バイクにはねられても、運転手が転倒して負傷しても子供の責任になると言う理屈は成立します。成立はするのですが、応用問題2のケースで運転手が無罪になるのは、私の知識では非常に珍しいような気がします。つまりボールでなく子供であれば、回避行動のために運転手が転倒しても、運転手の自己責任ぐらいに解釈して良いのでしょうか。

しょせんは法律の素人の素朴な疑問ですから、適当に流してください。

ところで87歳で5000万円の賠償請求とは、余程の大人物だったんでしょうねぇ。これも朝日からですが、

    脳の持病の影響もあったとして、請求額の約5千万円に対して賠償額は約1500万円と算出した

「脳の持病」ってなんだろうと思いますが、無ければ満額の可能性もあったように読めてしまいます。記事からは子供が蹴ったボールがたまたま校庭外に飛び出し、これが原因で事故が起これば責任は全面的に子供に帰すると判決がなっているように受け取れそうです。やっぱり判決文ぐらいの情報が無いと、どういう事実認定を行ったかわからないのが隔靴掻痒の感じがします。

違和感を感じる弁護士もおられるようですから、判決文を探されて分析を加えてもらう事を期待します。



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